2023.12.03
スムーズな会話の法則 〜催眠会話のフレーム〜
コミュニケーションにおいて、あなたにはどのようなお悩みがあるでしょうか?
● 初対面の人と、何を話したらいいのか分からない
● メッセージが正しく伝わらない
● こちらが話していると、つまらなさそうな反応をされる
●「いや」、「でも」、「しかし」・・・など抵抗される
● 会話のバトンが回ってこず、話の輪に入れない
● 会話のバトンが回ってきた時に緊張してうまく話せない
他にも様々なお悩みがあるかと思います。
そして、上記お悩みはそれぞれで対処法やトレーニングの仕方が変わってきます。
今回は、抵抗なく、スムーズにお相手の深い部分にメッセージを届け、こちらの提案を建設的な形で受け取ってもらうための方法をお伝えしていきたいと思います。
目次
20世紀最高の心理療法家
あなたは、ミルトン・エリクソンという心理療法家をご存じでしょうか?
彼は、他の精神科医たちが匙を投げた、何年も何十年も変わらなかった患者たちを、催眠という技術を用いながら、ものの見事に治療していきました。
それまでの精神医学界では、「患者が良くならないのは、患者が悪い。患者には意識的な抵抗があって、催眠に入れない人は入れない。治らない人は治らない」と、されていました。しかし、エリクソンはどんな人でも催眠に入ることができること、そしてどんなに抵抗の強い患者でも望ましい変化は起こりうることを立証しました。
エリクソン少年とロバ
これは、そんな20世紀最高の心理療法家と言われたミルトン・エリクソンの、子供時代のお話です。
彼は農場の出身でした。
ある寒い日の朝、エリクソン少年は農場内の散歩をしていました。すると、彼の父がロバを小屋に戻そうとしているところに出会いました。しかし、ロバは父の手綱に抵抗して、全く中に入っていこうとしません。引っ張る父、抵抗するロバ、両者は綱引き状態になっていました。
それを見たエリクソン少年は、あまりに滑稽な絵面にケタケタ笑ってしまいました。
すると、父はこちらに気づき、「笑っているならお前も手伝え!」と彼を呼びました。
エリクソン少年は、父が引っ張るロバの方に近づいて行き・・・・
小屋を見るか?ロバを見るか?
さて、あなただったらどうするでしょうか?
よくやりがちなのは、↓
同じ方向に、ふたりで力をかけるという方法です。
強引に、あなたが行かせたい方向に相手を誘導するやり方です。
これは相手の自発的な動機を無視して、権威性やポジションパワーで相手に負荷をかけます。
忙しい現場や、序列・規律を重んじる集団でよく見られるコミュニケーションスタイルです。
しかし、今回の相手はロバです。
たとえ親子二人で力を合わせたところで、ロバの馬力に敵うはずがありません。
そこでエリクソン少年は、こうしました。
そのロバの尻尾を持って、小屋から出す方向に引っ張ったのでした。
すると不思議なことにロバは自ら小屋の中に入って行きました。
なぜ、これでロバは小屋に入っていったのでしょう?
“ ユーティライゼーション ” という心理技法
今、このロバの状態をちょっとイメージしてみましょう。
ロバは前と後ろから引っ張られている形になります。
ロバには、「 抵抗したい気持ち 」があり、それで父に抵抗していました。
そんな中、前だけでなく後ろからも少年によって引っ張られたわけです。
すると、後ろからは子供の弱い力で引っ張られ、前からは大人の強い力で引っ張れていることになります。
ロバは、大人の強い力に抵抗するより、子供の弱い力に抵抗する方が楽だと感じ、まんまと小屋に入っていったということです。
エリクソン少年は、ロバの「抵抗したい気持ち」を利用して、望んだ行動を喚起させたのでした。
このように、相手の反応や、既に持っているものをユーティライズ(利用)して、望む反応を喚起させるアプローチをユーティライゼーション(利用法)といいます。
ミルトン・エリクソンは心理療法の世界に多大な貢献をしましたが、本人曰く、このユーティライゼーションが、自分が心理療法に残した最も大きな貢献だと言っています。
「幾年にわたる経験で学んだことは、わたしは患者を誘導しようとしすぎていたことです。起こることをそのまま起こさせ、そこから現れてくるものや反応をそのまま利用すればよい、と言うことを学ぶまでに多くの時間を必要としました。」( ミルトン・エリクソン -1976)
「抵抗」とは本来、 “ 存在しないもの ”
ミルトン・エリクソンは一流の心理療法家である前に、卓越したコミュニケーターでもありました。
先ほどもご紹介しましたが、エリクソンが現れるまでの精神医学界では、「患者が良くならないのは、患者が悪い。患者には意識的な抵抗があり、治らない人は治らない」と、されていました。
しかし、彼は、他の精神科医たちが匙を投げた、何年も何十年も変わらなかった患者たちを、ものの見事に治療していきました。
そこには、この「ユーティライゼーション」という在り方があったからこそ、普通の医師が「抵抗」と称する壁をものともせずに、治療につなげることができたと言えます。
彼は患者の中に「抵抗」を見てとるや否や、それをどのように利用したら、より良い治療につなげることができるかを考えました。彼にとって「抵抗」とは、より良い治療のための「材料」に過ぎなかったのです。
流れを止めない
動物は、やりたいことを邪魔されたり、邪魔される可能性を察知した時、大きなストレスを感じます。
例えば、あなたは道を歩いていて、急に割り込まれたり、遅い人が前に来たり、自分がわざわざ止まって道を譲らなければならない場面に遭遇したとき、ストレスを感じたことはありませんか?
物理学に慣性の法則があるように、動物にも「今起きている反応はそのまま続けたい」という性質が備わっています。ですので、その流れを止めてしまうと、なんとなく害されたように感じ、そこに心理的ストレスが生まれるのです。
コミュニケーションにおいて、お相手が心理的なストレスを抱くことなく、スムーズにやり取りが進んでいくためには、この「流れを止めない」というのは極めて重要です。
よく話の腰を折る人を、空気の読めない人などと言いますが、それはまさにこの典型と言えます。
(※ 心理療法において、相手の習慣的なパターンを崩す際に、あえて流れを止める「パターンの中断」という技法がありますが、今回は割愛します。)
今回は、会話の中で流れを止めることなくスムーズに、そしてこちらのメッセージを、抵抗なく受け入れてもらうための技法を、ここからご紹介して行きます。
イエス・セット法(ペーシング-リーディング)
では、どのようにしたらこちらの意見をスムーズに受け取ってもらえるのでしょうか?
そんな時に便利なのが、「ペーシング-リーディング」という枠組みです。
ビジネスでは「イエス・セット」という名前で広まっていますが、これはもともと催眠療法から来たコミュニケーション・スタイルです。
繰り返しになりますが、物理学に慣性の法則があるように、動物にも今起きている反応はそのまま続けたいという性質が備わっています。したがって、「同意」という一連の反応が続くと、その先も「同意」の反応を続けたくなるのです。
では、具体的にどのようにするのか?
お相手の中で絶対に「YES」の反応が起こるフレーズ(自明の理)を3〜5つ重ね、その後に伝えたいメッセージや意見を挟むというやり方です。
このイエス・セット法は、全部で16パターンありますが、今回は基本の4パターンを、事例を用いながらお伝えしたいと思います。
イエス・セット話法 4パターン
基本パターン ペーシング – ペーシング – リーディング (Yes – Set基本形)
相手の発言や、発言の際に滲み出ている感情に同調(ペーシング)しましょう。これで無意識のYESを得ることができます。その後、あなたの伝えたい提案につなげていきます。(リーディング)
会話例
※(YES):お相手の中での反応
【パートナーに、外食したいと提案する】
「今日は一日忙しかったでしょう。(YES) お疲れさま。長い通勤で疲れているよね。(YES) すぐにリラックスしたいって言っていたし、(YES) それならいつも行くあのレストランに行って、今夜は2人でリラックスした時間を過ごさない?(リーディング)」
【販売員によるセールス】
「お一人で自由に吟味されているところを横から大変失礼します。(YES) 先ほどお店に入られて、あちらの商品を見てらっしゃいましたね。(YES) そして今こちらの商品をよくご覧になられていて。(YES) お客さまのショッピングのお邪魔にならない程度のご説明を少しばかりさせて頂いてもよろしいでしょうか?(リーディング)」
【部下から報告を受けた上司】
「この報告書も、素晴らしいですね!(YES)とても2時間で終わらせたとは思えない出来です。(YES) 本当によく頑張ってくれましたね。(YES) ありがとう。私が見込んだ君の実力に甘えて、次にお願いしたいことは、新人教育のための教育プログラムをデザインして欲しいということです。(リーディング)」
※Yes – Setは、単なる事実の言語化ではありません。事実と相手の感情にペーシングしながら、あなたが連れていきたい方向へと導いていきましょう。
※Yes – Setは、自明の理でのペーシングから開始し、次の自明の理をつなげていくと効果的です。抽象⇨具象へとつなげていくと同意を得やすくなります。
※ここで肝心なのは、あなたの顔の表情や声のトーン、雰囲気です。Yes – Setを使いこなせない人の典型は、言葉に頼りきっているということです。無意識は、顕在意識と異なり言語を持ちません。あなたの表情や雰囲気、声のニュアンスから敏感にあなたの本心を感じとります。発言とあなたの非言語が一貫性を持った形になるように訓練しましょう。
基本パターン② 「でも」、「いや」、「しかし」、「だけど」などの抵抗の利用
相手が抵抗を示したら、その抵抗にペーシングします(抵抗をユーティライズ)。相手に変化が現れたと気づくまで、相手の発言はもっともだ、というようにその正当性を認めましょう。そして、言っている内容を十分に理解していることを認め、可能性のある隠された目的(肯定的意図)を伝えます。そして相手の変化に気づいたら、リーディングしていきます。
会話例
A:「映画に行こうよ」
B:「いや、1日セミナーの後で疲れているんだ。」
A:「疲れているし、長いセミナーが終わった後で映画を見に行くなんて億劫に感じますよね。(YES) 確かに、計画も立てないといけないし、(YES)運転する必要もありますしね。(YES) 私は疲れている時、たまに映画を見ることでリフレッシュできるんです。良い気分転換になったりもします。(YES) 頑張る必要も全くありませんからね。(YES) ただゆったりと座って楽しむだけ。(YES) 来た時よりも元気になって帰ることもあるんですよ。(YES) もちろん、あなたには体を大切にして欲しいし、私と出かけることを楽しんで貰えると嬉しいなと思うんです。(YES)どう思いますか?(リーディング)」
基本パターン③ 相手の発言に対し、自分の中で異議や懸念がある時の会話の方向づけ
心配事や懸念についてポジティブなことを3つ言ってから、「どのように」の質問で再度、方向付けを行っていきます。この会話フレームは、心配や異論を相手に汲ませ、代替案や妥協案を創造する会話のフレームとなっています。
会話例1
A:「ジェットコースターに乗ろうよ」
B:「ジェットコースターは良いよね!(YES)乗るとスッキリして爽快だし、スリルも味わえる。(YES)ジェットコースターからじゃないと見られない園内の景色もあるからね。(YES)ジェットコースターが苦手な人でもそれを楽しむためには、どのようにしたら良いかな?(リーディング)」
A:「そうしたら、Bさんでも乗れるくらいの、スピードも起伏も程々のがあるからそっちに変えよっか。」
会話例2
クライアント:「ゴールは、年収2000万にしようかな」
コーチ:「年収2000万ですか、良いですね。それだけの稼ぎがあれば、余裕を持った暮らしもできるでしょうし、ご家族にも良いものを提供できますね。あなたを見る周囲の目も変わるでしょう。そうしたら、今のアルバイトの生活から年収2000万円を確実に達成するためには、どのような行動が望ましいでしょう?」
クライアント:「考えてみたけど、このままアルバイトを続けたり、どこかの会社に採用されたとしても、いきなり2000万円は現実的ではないなって思ったよ。貯金とか資格も全くないし。まずは転職して、年収500万からスタートしてみようかな。そして次のステップで年収2000万を目指していくよ。」
基本パターン④ リフレーミングを用いた催眠会話のフレーム
この会話のフレームは、相手の論点を、別の重要な論点へとすり替えたり、相手の発言の意味合いを再定義する場合に有効です。このプロセスは4つのプロセスからなります。
①ペーシング(同意)- ②and – ③Redefine(再定義) – ④Question(質問)
①ペーシング(同意):「そうですね」
②and:「そして」
③Redefine(再定義):「問題は(論点は)、××ではなく〇〇である。」
④Question(質問):あなたの方向付けたい質問
会話例1
客:「この商品、高すぎるよ。」
販売員:「そうですね、価格だけを見ると、決して安い商品ではありません(同意)。そして、初期の価格が重要なのではありません。これが非常に信頼できる商品であり、一度ご購入頂ければ、20年は継続的にご使用いただけます。安い商品で故障のたびにお店に通う手間を省き、また長期に渡ってお金を貯められる(再定義)としたら、いかがでしょうか?(質問)」
会話例2
父:「今年の夏休みはハワイに家族みんなで行かないか?」
母:「なに言ってんの、そんなの無理でしょ。そこにお金を使うなら子供たちを塾にでも行かせるわよ。」
父:「そうだな、母さんの言ってることはもっともだ。(同意)勉強は大事だもんな。(同意)俺も子供たちのためになることにお金を使いたいと思っている。(同意) そしてさ、よく言うだろ?日本人はハワイ好きが多いって。ハワイに行くと人生観が変わるらしいんだ。大切なのは…父さんはこの歳までハワイに行ったことなかったけど、子どもたちには早い段階で、人生観が変わるような体験をさせて上げたいんだ。(再定義)母さんだってそう思わないかい?(質問)」
まとめ
さて、今回の内容はいかがだったでしょうか?
もしかしたら、「なんだ、知ってるわ」と思った方もいたかもしれません。
しかし、「イエス・セット法」は、今でこそ有名な心理テクニックとして知られていますが、使いこなせている人は本当に少ないものです。
なぜなら、イエス・セットが効果的に機能するためは、具象・抽象の概念や、話す内容とその順番、動機付けの構造や話し方(非言語)など、考慮すべき条件がいっぱいあるからです。
今回のブログでは、その簡易版をご紹介させて頂きました。
詳しく知りたい、学びたい、という方はどうぞ、当スクールへ学びにいらしてください。
あなたが口を開けば、聞く人全員を催眠に入れることも可能になります。
そして、伝えたいメッセージを相手の奥深くに届けることができるようになります。
催眠という技術で、あなたのコミュニケーションのお悩みが少しでも軽くなってくれたら、私としても嬉しく思います。
今回も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
Story Notes ヒプノセラピー&NLPスクール
設楽 貴之